THE ART OF TALES from EARTHSEAを購入

renkonn2006-08-25

[ゲド戦記][ジブリ]
やっと、ゲド戦記のアート本「THE ART OF TALES from EARTHSEA」が届いた。
早速、食い入るように眺めているのだが、いつもの事ながら、ジブリの描画力には本当に脱帽する。
自分の話しで恐縮なのだが、これでも美術大学出身で、学生時代はくる日もくる日も絵を描いていた。専攻はデザイン科だったので、日本画や油絵科の人達程、真剣にデッサンをする機会は少なかったが、多少なりとも絵筆を取った経験から見ると、トテツモナク上手いなぁ、、と思う。
背景美術の秀逸さは、改めて言うまでも無いのだが、今までとはちょっと違う「解放された」印象を受ける。
私も物好きで、このジブリのTHE ARTシリーズは今まで、3冊買っている。

毎回映画が公開される度に、THE ART、ロマンアルバム、徹底ガイド、絵コンテ集、はセットになって発売されているが、今回のTHE ART OF TALES from EARTHSEAは、今までのシリーズと違う面白さを感じた。
第一に、これまでは「イメージボード」は監督一人が描いているもので(すなわち駿監督)キャラクターデザインやら、背景デザインになって、やっと他のスタッフの名前が出て来る感じだった。ところが、今回は吾郎監督以下、複数の人が同じテーマやシーンをモチーフに「イメージボード」を描き起こしているのだ。このコラボレーションが何とも面白い。人によって、こうも捉えるイメージが違うのか、描くキャラクターの雰囲気がこんなに変わるのかと、本当に興味深く見ている。
吾郎監督もなかなか描ける人だが、いやぁ〜凄いと思ったのが、山下作画監督のイメージボード。最初、駿監督が描いたのかと思った程に「ジブリの動き」が描けている。

「僕は美形キャラは描けないので、アレンとテルーは稲村(作画監督)担当で、おじさん、おばさんを専門に描いたんです。」

とは言うものの、この人の描く絵は一番「ジブリ」らしい人物だった。脂の乗ってるとは、今の山下監督の事で、その生き生きしたスケッチの中の動きを見るだけで、キャラクターがどう動くのか想像がつく。さすが、年季が入っているなぁと思えるし、何でも(鳥でも竜でも建物でも)描ける人で、この人はきっとみんなから頼りにされるに違いないと、絵を見てすぐ判った。
そして、私が凄く印象に残ったコメントが、、

「テルーのスケッチを描いていた時、顔の痣を最初は線で小さく入れていました。線画の時は気が付かなかったのですが、着彩の段階になって、痣の色を置いたとたんに胸の潰れる思いがしました。でも、稲村さんはもっと大胆に痣のラインを入れていて、結果としてはあの方が表現として正しかったのだと思います。」

ああ、この人は何て「優しい」人なんだろう。いかに、ストーリーの設定上とは言え、女の子の顔に痣がある状態(原作はもっと酷くて、潰れて片眼も無い事になってます)に、心から胸を傷め、そして、人の仕事に対しても尊敬の念を忘れない。

不思議なもので、絵は人柄を如実に表してしまう。山下監督の描くキャラクターはどれも、懐が深く包容力があって、人間味を感じるキャラクターだ。特に、テナーのスケッチは大好きで、「しっかり者の美しいお姉さん」に描いてくれたのが嬉しい。

一方、もう一人の作画監督である稲村さんは、本当に美しくキャラクターを作り上げる。ハウルのキャラクターデザインも稲村さんで、ハウルに限って言えば、駿監督のイメージボードよりも、数倍美形で魅力的なハウルを描いている。
今回の、アレンも稲村さんらしい表現で、「涼しげな目元」を描かせたらこの人の右に出る者は居ないだろう。ご本人も目元が涼しい方なのだ。

そして、吾郎監督は「自分には経験が無い。」と言いながらもなかなかの描き手である事は間違い無い。若い頃から山下監督と同じ様に手を動かし続けていたら、もっと豊かな表現テクニックを身に付けていただろうなと想像するし、建築をやっていただけあって、建物のスケッチは群を抜いて上手い。パースがぴったりとあっている所はお見事で、「クモの館」のイメージボードはさすがです。

今回のアートブックには、映画本編には採用されなかったスケッチが多く載っていて、さらにそれも興味深かった。ゲド戦記の一巻を映画化する前提で、描かれた「若かりし頃のゲド」は目元が吾郎監督にそっくりで、今までの宮崎アニメに「居そうで居なかったヒーロー」になっていただろうな、と想像したりする。(私が原作からイメージしたゲドはこのスケッチのゲドにほぼ近いかなぁ)

面白いのは、大賢人になってからのゲドは、映画本編の中のゲドが一番「それらし」かった事。どの人も、壮年を迎えたゲドの表現には四苦八苦していた。

このように、企画段階での試行錯誤や取捨選択が手に取るように判る内容で、それまでのアートブックのような
「何て、忠実にイメージボード通りに映画は作られているんだろう。」
という見方とは違う味わいがある。