賽が投げられるまで

[住まいづくり]
ふいに舞い込んだ、転属の話し。オファーであるが故に、こちらにも断るという選択権があってややこしい。いっそ、有無を言わさぬ命令であれば、いろいろ楽なのかもしれないと、ちらっと考えた。

「とにかく、先方と話しをするだけしてみたら。自分の目で確かめた方がいいよ」と諭して、水面化で夫は転属の下調べを始めた。

同じサラリーマンとして、仕事の内容には納得してもらいたいと思う。これが、同じ勤務地内での話しなら、「納得しないならやめちまえ」と言えるのだが、勤務地が変わるとなれば、話しは別である。本音を言ってしまえば「多少難ありでも家族の為に我慢してくれ」という気持ちもある(決して夫には言わないが)

正式に転属の話しを受けるまで、夫の気持ちは揺れに揺れた。

入社以来ずっと同じ仲間と仕事をし、ある意味では居心地の良い職場なのだろう、私も慣れた職場を捨てられないで、今に至っているのだから、人の事は言えない。
時には激しく、時にはお互いを理解する調子で、よくよく話し合った。

そんな中でふと、女性の方が男性より沢山、切羽詰まった決断をしているのだと気が付いた。夫には言っていないが、私から見れば、「こんな事で悩むなんて甘い!」と思えてしまうのである。

結婚しようと決意した時、職場の人からは辞めずに通勤すると宣言して驚かれ、第一子を妊娠しても必ず戻って来ると宣言して驚かれ、もうこのまま辞めたいなぁと思う衝動を必死にこらえて、職場復帰してまた驚かれ、、、そんな局面局面を乗り越えて来たのを思えば、「私だって同じくらい、決断して乗り越えて来たんだぞ」と、思わずにはいられなかった。

あまりストレートに言ってしまうと、相手の行き場を無くしてしまうから、そこはぐっとこらえているが、心の中では
「逆転現象だな」と感じている。いくら口では「理解している」と言っても、実際に今までは夫の方がお気楽で、今度は私がお気楽になる番らしい。

ただ、あまりそればかりでは、フェアじゃないし、ここで一つ打開案が必要だろうと感じて、私としては珍しい一世一代の交換条件を出した。

もし、夫が転属に同意してくれるなら、私は今の部署で目指せるだけ上を目指すと。。。。

昇進にはそんなに関心が無かったし、自分には関係ないとも思っていた。
育休を2度も取っているし、残業は出来ないし、単純に考えれば、そう簡単にキャリアアップはしないだろうとも思っている。
であるが、結果として、今回の転属を受け入れれば、夫が私のキャリアに合わせてくれた事になる。そおいう犠牲を払った以上は、私も何らかの誠意を見せた方が良いと思ったのだ。

この条件提示で、夫の態度はかなり変わった。
元々、「奥さんは仕事が出来る人なんだ」と自慢したい変な願望の持ち主で、よく「頑張って昇進しろ」とハッパをかけられていた。髪結いの亭主的素質があるらしく、奥さんに稼いでもらって自分は、ぶらぶら、、、というのが夢らしい。(最も、夢だけで勤勉に毎日働いているが)この、ニンジンが一番効いたのか、数日後、夫は「転勤の意志があります」と正式に先方に返事を返した。

と、こう書くと、転勤の事だけを考えていたように見えるが私が育休中だったのが、良かったのか悪かったのか。。。妻はどんどん、想像の羽根を広げ、どんどん情報集めをし「転勤が決まったらこんな生活」とういう青写真を着々と描いてしまったのである。

夫が気付いた時には、すっかり外堀を埋められ、結局「うん」と言わざる終えない状況だった。